化学物質の有毒性について(その1)ー 目でみる化学物質の有毒作用
私たち人間は生物を食べて生命活動をしています。米、麦、野菜、果物、卵、肉、魚、そして生命体ではないが、水、空気など私たちが食べているもの、飲んでいるもの、吸っているもので生命活動で必要なものはすべて混合物、つまり複合体なのです。それに引き換え、化学物質は元素が一つから複数組み合わさった単一物質です。人間を含めて、この単一物質が生体に入るということは化学物質が存在しない時代にはあり得なかったことでした。化学物質が初めて存在したのはせいぜい1万年位前のことで、現在のようにこれほど多くの化学物質が使用されてきたのは産業革命以降のことですから、地球年齢からみたら、まだほんの一瞬に過ぎないことです。しかし、とてつもない変化を来しました。
生物の体内に化学物質が吸収されることによって、これまでの生物とは異なる元素バランスの生物が出来上がってしまいました。植物も動物もそして人間も変わっていきました。その変化を写真でみていくことにしましょう。
《カドミウム及びその化合物の中毒》
顔料、塗料、合成樹脂の安定剤、メッキ、合金などに用いられていましたが、イタイイタイ病の原因物質とされて、その需要は激減していきました。お馴染みだったのがビール瓶のプラスチックのパッケージが黄とか赤だったのを覚えていませんか。あの顔料がカドミウムなのです。WHOのIARCではGroup1で人に対して発癌性があるとされています。
写真1 左は正常マウスの胎児、右は塩化カドミウム(CdCl2)投与マウスの胎児で頭頂骨、間頭頂骨、後頭骨に欠損がみられています。
写真2 塩化カドミウム投与マウスの胎児に外脳症が出現
写真3 塩化カドミウムマウスの胎児(右側)に脊椎裂と尾椎欠損がみられています。
写真4 塩化カドミウム投与マウスの精巣に出血がみられます。
正常マウスの精巣
《砒素中毒》
写真5 三酸化砒素(AS2O3)摂取による下肢の皮膚炎
写真6 砒素による黒皮症の病理組織像、砒素焼き作業10年、メラニン色素が増大している。メラニン色素が増えることで皮膚が黒く変化します。
《水銀中毒》
水銀中毒と言えば、有機水銀中毒による水俣病が有名ですが、無機水銀でも様々な障害が出現します。塩化第二水銀(HgCl2)をウサギに皮下注射した結果、写真7にみられるように腎臓の尿細管部に水銀の沈着がみられました。水銀は利尿剤に使われていましたが、それは尿細管に水銀が沈着することで利尿を促すものと私共はこの実験で推察しました。
写真7 赤い部分が水銀
写真8 水銀計器製造工の手の震え
有機水銀中毒は中枢神経系の障害ですが、無機水銀では末梢神経に障害が生じて、手が震えます。
《有機スズ化合物中毒》
ポリ塩化ビニルの熱的安定化剤、殺生物剤、材木の防腐剤、船底塗料、漁網塗料などに使われ、一時期は外因性内分泌攪乱物質つまり環境ホルモン物質の一つとされていました。船底塗料や漁網塗料として貝などの付着生物を殺す目的で使われていましたが、現在は自主規制して全面的に使用が禁止されているようです。
写真9 透明ラップの製造に使われていました。ニーダー内部の清掃中の作業者に接触性の皮膚炎を生じています。物凄く痒いとのことでした。
《エチレングリコールモノアルキルエーテル(セロソルブ類)中毒》
自動車用塗料の有機溶剤として使われていましたが、私たちの動物実験の結果から精巣障害が発見されたことでアメリカの許容濃度委員会(ACGIH)が極めて低く規制されたことで、実質的に使用が出来なくなりました。
写真10 精巣の萎縮
写真11 精巣の病理組織検査で細胞の障害が出現
しかし、アメリカの有機溶剤製造メーカーはエチレングリコールからプロピレングリコールに直ぐに切り換えました。アメリカのこのメーカーは私共が実験結果を発表する前から精巣への有害作用を把握しており、だた発表していなかっただけのことでした。有毒性があるとわかっていても発表はしないという姿勢はさすがアメリカ式というものですかね。ダウ・ケミカルという会社で世界一の規模の化学会社です。
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